「世に風味豊かなものは数多くあれど、その中でも、とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである」(著者あとがき)
「風味」とは「飲食物の香りや味わい」、
「絶佳」とは「(風景などが)すぐれて美しいこと」。
「眺望絶佳」などと使うらしいけれど、本書のタイトルは「風味絶佳(ふうみぜっか)」。
装丁も、なつかしくもおいしそうなミルクキャラメルがモチーフです。
官能的(必ずしも性的、という意味ではなく、五感に効く)小説といえばこの人、山田詠美。実は私、デビュー作の「ベッドタイムアイズ」からずっと彼女のファンです。
人間のいとおしさをやさしくたたえるそのまなざしには、とても惹かれるものがあります。
デビュー当初は黒人との性愛というテーマが多く、かなりセンセーショナルな扱いをされたけれど、ことさらにそのシチュエーションを描くことがなくなっても、彼女はすばらしい作品を数多く産み出し続けています。
2005年5月初版のこの短編集のテーマは「肉体の技術をなりわいとする人々」。
鳶、貯水槽清掃業、引っ越し業などの「なりわい」をもつ主人公たち。それぞれにとても魅力的な彼らの風味を作者は「咀嚼しながら」、6つのチャーミングな短編に仕上げています。いずれも「巧い!」とうならざるを得ないようなできあがりです。
表題作「風味絶佳」で、福生でバーを営む「グランマ」の決めぜりふ、「恋人は必需品だよ」があまりにもカッコいい。。ぜひご一読を。おすすめです。
ところでいまさらですが、どうも、映画にもなっていたらしい。
なんとあの沢尻エリカが主演。
そして「グランマ」役には夏木マリ。これはナイスはまり役。
(読んだ人にはわかる)
これはぜひビデオも見なければ…。