教えただろう。晴れの日もあれば、雨の日もある。
風の強いときもあるんだって。
猫はその時々で居場所を変える。
たとえ、今のお前が雨と風の中にいたとしても、
雨はいつかあがる。
風はそのうち止む。
陽の当たる場所は自分で探すんだ。
猫だって、そうしてる.
名作「ハードボイルドエッグ」の続編。
マーロウになりたい主人公最上は、相変わらずネコや犬などのペットさがしで生計を立ててるさえない探偵。
でも、たまーに、実にハードボイルドな事件に遭遇する。
今回は、わけあり美女と暴力団組長から、同時に同じネコの捜査を依頼される。
「?」…。とまどう最上に、なじみのバーのマスター「J」から金髪グラマーの助手を紹介されるが、これが多重人格の16歳で…。
萩原浩はやさしい。とくにこの連作での最上やJ、助手の茜、前作での助手の綾さんなど、「エッグ」シリーズ(さらに続編も、と聞いた)のメインキャラクターへの作者の慈しみは、いい。
ユーモアとどたばたとサスペンスで一気に読ませるのだけれど、最後は必ずグッと来させてくれる。
今回も自らの多重人格に悩む茜に、冒頭の言葉を切々と説くのだ。
「自分の言葉が正しいかどうかなんてわからない。ただ私は、隣で泣きじゃくっている少女に、世間に雑巾のように絞られ続けてきた自分でも、曲がりなりにも三十三年間生きてきたことを教えたかっただけだ」
マーロウにあこがれて、比喩と固有名詞にあふれた物言いをして、いつも周りから「そのヘンな日本語、やめろ」と突っ込まれてばかりいる主人公が、ここぞ、というときに宝石のようなせりふをはく。このシリーズの真骨頂かな。
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