7月 07, 2010

そっと呟くだけで、人生が薔薇色に染まることばがある

7月 07, 2010

タイム屋文庫
  朝倉かすみ

「そっと呟くだけで、人生が薔薇色に染まることばがある」

上手に、器用に生きられる人ばかりじゃないよね。
でも、それぞれに、幸せはくるのだなあ、と思う。

上司との不倫を切り上げる主人公。
そう、清算、などと重たくではなく、
まさに「切り上げて」というような軽々とした感じで
主人公は2年続いた不倫相手と別れるのだけれど、
それは決して気持ちが軽かったということでなく、
逆にこうやってたくさんのつらいことをやり過ごしてきたのだろうな、
と思わせるふるまい。

小樽に帰郷した主人公は、
亡くなった祖母の家を改築して貸本カフェを開く。
その名が「タイム屋文庫」。
「時間旅行」にかかわる本やCDしか置かない。
時をかける少女、流星ワゴン、スタートレック、
サディスティック・ミカ・バンド(「タイムマシンにお願い」)。
などなど。

理由は、16歳のときの初恋の男の子が、
そういうストーリーが大好きだったから。
15年たってふるさとにもどった主人公は、
「ラ・ビアン・ローズ」が低く流れるカフェで
店番をしながら、初恋の男の子が再び現れるのを待っている。

たくさんの優しい人たちが
お店に集まってくる。
なぞの黒猫、不思議な失踪娘、など、
魅力的なキャラクターやエピソードが多く登場する。

最後には初恋の男の子と再会を果たすのだけれど、
やはり二人とも変わってしまっていて、
結局は開店のときにとてもよくしてくれた
レストランのシェフと恋に落ち、結婚する。

あわてることはないんだ。
毎日を懸命に生きる中で、
ちょっとした幸せを見つけながら、
いつか、自分にぴったりくる
人生を手にすることができる。
そのチャンスは、みんな平等にもっている。

だいじょうぶだよ。

作者のそんなあたたかいメッセージは
ラストで特に光っている
(この「へたなダンス」がいいんだ、また)

一女をもうけた夫婦だというのに
柊子と樋渡徹には、依然として「いい夜」があった。
青いトタン屋根の家に家族そろってお泊りに行ったときだ。
絵本を読んで、娘を寝かしつけたあと、軽く飲んで、
夫婦でへたなダンスをやる夜である。

かける曲は決まっている。
小柄で痩せたフランス女が薔薇色の人生を歌う曲だ。
隣人、親友、恋人、夫、おとうさん、と
いまでも折々に役割を変える樋渡徹の肩に顎をのせて、
柊子は考える。

そっと呟くだけで、人生が薔薇色に染まることばがある。

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